前々回・前回で民法に規定される法定相続人の基本的な考え方と、法定相続人として最も一般的な配偶者と子の場合の身近なケースを例示・解説しました。
相続対策の第一歩として、まずは”ご自身の現状を正しく把握すること”が重要で、その一要素である”法定相続人(の数)”が判明すると、仮に相続税が生じるとした場合に誰がそれを負担するのかのみならず、相続税額算定における次のような事項が明らかになります。
(1)生命保険金等の非課税限度額(相続税法12条1項5号)
被相続人が被保険者・保険料負担者であった生命保険契約で、相続人が受取人である場合、受け取った生命保険金のうち一定金額(非課税限度額)までは非課税財産として相続税が課税されません。
この非課税限度額は、5百万円 × ”法定相続人の数”によって算定されます。
(2)退職手当金等の非課税限度額(相続税法12条1項6号)
生命保険金と同様に、被相続人の死亡によって相続人が受け取った退職手当金のうち一定金額(非課税限度額)までは非課税財産として相続税が課税されません。
この非課税限度額も、5百万円 × ”法定相続人の数”によって算定されます。
(3)遺産に係る基礎控除額(相続税法15条1項)
相続税額の算定過程において、各相続人等が受け取った財産の価額(課税価格)を合計した金額から遺産に係る基礎控除額を控除した課税遺産総額が相続税の課税標準になります。
この基礎控除額は、平成27年1月1日以後に生じた相続・遺贈の場合、30百万円 + 6百万円 × ”法定相続人の数”によって算定されます。
(4)相続税の総額(相続税法16条)
更に、相続税では課税遺産総額に直接税率を乗じて税額を計算するのではなく、課税遺産総額を法定相続人が法定相続分に応じて取得したものと仮定して按分した金額に各々税率を乗じて相続税の総額を計算することになっています。
この法定相続分は、”法定相続人及びその数”によって決定・算定されます。
このように”法定相続人”を把握することによって、相続財産に加えなくても良い金額や相続財産価額から控除できる金額など、相続税額を決定するための基本的かつ重要な情報を掴むことが出来ます。
尚、いずれも法定相続人の中に”養子”がいる場合には注意が必要です。
法定血族である養子は、身分上(法的地位)は自然血族である”実子”と何ら変わりはありませんが、相続税法上、法定相続人の数に算入できる養子の数には以下のような制限が設けられています(相続税法15条2項)。
これは、養子の算入を無制限に認めると、法定相続人の数を増やすことによって遺産に係る基礎控除額を増加させ、課税遺産総額をゼロあるいは低廉な価額に抑えることで相続税の租税回避に繋がる恐れがあるからです。
①被相続人に実子がある場合 ・・・ 法定相続人の数に含められる養子の数は”1人”まで
②被相続人に実子がない場合 ・・・ 法定相続人の数に含められる養子の数は”2人”まで
但し、上記の制限に関わらず、特別養子縁組によって養子となった者や被相続人の配偶者の実子で被相続人の養子となった者(連れ子)、養子の代襲相続人は実子とみなして常に法定相続人の数に算入されます(相続税法15条3項)。
「法定相続人」についてはこの辺りにして、次回からは現状把握のもう一つの重要な要素である「財産・債務の洗い出し・評価」について解説していきたいと思います。