前回に続き、生前対策の具体的手段の一つである「各相続財産の課税価格の圧縮」の一例として、今回は”生前贈与の各種非課税制度”の活用についてお話しします。
昨今、生前贈与に関する記事や商品広告が新聞・雑誌等でも頻繁に取り上げられていますので、生前対策の中でも皆さんの関心が最も高いテーマではないかと思います。
国は、現在高齢者に偏っている個人金融資産を現役世代に移転させることを促進する目的で、平成27年から贈与税(特例贈与)の税率を軽減するとともに、ここ数年立て続けに贈与税の非課税制度を新設・延長しており、このトレンドは今後も当面継続されるものと思われます。
贈与税の各種非課税制度は、贈与者(財産をあげる人)が特定の財産を一定の要件を満たす受贈者(財産をもらう人)に贈与した場合に限って贈与税を課税しないというものですが、元々贈与税(暦年課税)には110万円の基礎控除がありますから、それも含めると現時点で生前贈与で非課税になる方策としては次の5つがあります(相続時精算課税を除く)。
①贈与税(暦年課税)の基礎控除額(110万円)以下で贈与する
②贈与税の配偶者控除を活用する
③「住宅取得資金等の非課税制度」を活用する
④「教育資金一括贈与の非課税制度」を活用する
⑤「結婚・子育て資金一括贈与の非課税制度」を活用する
ちなみに、平成28年1月からスタートした”ジュニアNISA”は、上記①の一手段として位置づけられます。
各制度の概要・仕組みについては、既に色んな所で解説されていると思いますので、ここで詳細を説明することは割愛しますが、贈与者・受贈者の要件や相続税との関係等で各制度を比較・整理すると次のようになります。
【令和4年4月1日現在】
制度 | 贈与者 | 受贈者 | 贈与財産 | 非課税限度額 |
生前贈与加算 の有無 |
税務署への 申告要否 |
①暦年課税の基礎控除
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(制限なし)
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(制限なし)
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(制限なし)
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110万円
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あり
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不要
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②配偶者控除
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夫 (又は妻)
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妻 (又は夫)
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居住用不動産 (又はそれを取得 するための金銭)
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2,000万円 ※①との併用可 |
なし
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必要
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③住宅取得資金等の 非課税制度
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直系尊属 (父母・ 祖父母)
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子・孫 (18歳以上)
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金銭
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最大1,000万円 ※①との併用可
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なし
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必要
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④教育資金一括贈与の 非課税制度
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直系尊属 (父母・ 祖父母)
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子・孫 (30歳未満)
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金銭等
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1,500万円 ※①との併用可
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なし (残額に相続税 又は 贈与税が課税) |
必要 ※金融機関経由
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⑤結婚・子育て資金一 括贈与の非課税制度 |
直系尊属 (父母・ 祖父母) |
子・孫 (18歳以上・ 50歳未満) |
金銭等 |
1,000万円 ※①との併用可 |
なし (残額に相続税 又は 贈与税が課税) |
必要 ※金融機関経由 |
どの制度を活用するのが最善かは、その方の家族構成(相続関係)や財産状況によって異なりますので一概に言えませんが、仮にお子様に生前贈与をするとした場合、これらの制度を活用すると受贈者一人当たり最大約3,600万円まで非課税で贈与することができ、人数に応じて相応の相続財産の圧縮が図れます。
勿論、これら制度にもメリットだけではなく、デメリットや留意しなければならない点もありますから、前回と同様、それらをよく考えて選択されることが重要です。
特に④・⑤については、相続税法上「扶養義務者間の生活費、教育費の贈与」の取扱いがあり、直系尊属から直系卑属に対してこれらの費用(通常必要と認められる範囲)を必要の都度贈与(負担)する分にはそもそも贈与税はかかりませんので、纏めて贈与する必要性や贈与する金額をよくよくお考えになられた方が良いでしょう。
いずれにしても、平成27年から相続税の基礎控除額が一律40%引き下げられましたが、第15回(相続財産(土地)の評価方法④~小規模宅地等の特例~)でご説明した「小規模宅地等の特例」や第23回(相続税の2割加算と税額控除)の「配偶者控除」と合わせて、生前にこれらの各種非課税制度を活用すれば、増加する税負担をかなりの割合で吸収することが出来ます。
それ故、これからは数ある生前対策の中からご自身やご家族に最善のものを取捨選択し、計画的に実施することが重要になってくるのです。