今年1月29日の日銀政策決定会合で我が国で初めて導入が決定され、2月16日から実際に導入された”マイナス金利”ですが、導入決定以来、新聞紙上でこの言葉を目にしない日はないというくらい随所で話題になっています。
そもそも今回導入されたマイナス金利は、民間金融機関が日本銀行に預けている一部の預金に対する金利がマイナスになった、つまり民間金融機関が日本銀行に資金を一定期間預けると今までは利息が付いていたものが、反対に利息(手数料)を取られる事になったというものであって、一般の企業・個人が民間金融機関に預けている預金に直接関係するものではありません。
にも拘らずこれだけ話題になるのは、当事者である民間金融機関の対応如何によっては一般の企業活動や個人生活にも間接的に影響が及ぶからなんですね。
具体的には、既に始まっているものも含めて次のようなものが考えられています。
①普通預金や定期預金の金利引き下げ
②貯蓄性のある保険商品の保険料引き上げ・販売停止
③国債で運用する投資信託(MMF等)の販売停止
④住宅ローン金利の引き下げ 等
また、企業の場合は、上記のような影響に加えて、金融商品会計や減損会計、退職給付会計などの会計処理を通じて財務諸表の数値に影響が及ぶことも懸念されています。これらの会計処理には、金融機関からの借入利率や長期国債の利回りなどを用いて価額を算定・現在価値を評価して処理する部分が含まれているからです。
その反面、金融機関からの借入利率が下がることで、従来よりも企業の資金調達が容易になるというメリットはあります。
いずれにしても一般の企業・個人にとってはマイナスの影響の方が大きいような気がしますが、では”相続(あるいはその生前対策)”にはどのような影響が考えられるでしょうか。
まず、最も影響があると言えるのは、上記④にも挙げた「住宅ローン金利の引き下げ」でしょう。
現在、金融機関の住宅ローン金利は変動金利で0.5%前後、固定金利で1.0%前後にまで下がっています。
生前対策の一つに直系卑属に対する「住宅取得等資金の贈与税の非課税制度」がありますが、住宅を取得する場合はこれらの制度を活用しつつ金融機関の住宅ローンも併用するのが通常ですから、その住宅ローン金利が過去最低水準に引き下げられていることはお子様方が住宅を取得する際の一つの大きな誘因になり得ます。
即ち、生前対策としてお子様方に住宅資金の贈与をお考えの方にとっては正に追い風、今が絶好のチャンスということです。
また住宅ローンに限らず、生前対策として不動産(土地・家屋)賃貸をお考えの方にとっても、不動産取得に際して金融機関から借入を行うのであれば同様にプラス効果が期待できます。
反対に、マイナスの影響が考えられるとすれば、上記②に挙げた「貯蓄性のある保険商品の保険料引き上げ・販売停止」でしょう。
生命保険の保険料は、契約者から預かった保険料を国債等で運用した結果得られる収益を見越して(割引いて)設定されていますが、国債の利回りがマイナスになる今のような状況が続くと当初期待していた収益が得られなくなるため、生命保険会社としては保険料を引き上げるか、保険商品の販売自体を停止せざるを得なくなります。
既に契約されている一時払い終身保険等には影響ありませんが、生前対策(生命保険金等の非課税枠の活用)として今後生命保険に加入される場合は保険商品の選択肢が少なくなったり、既に契約されている保険であっても平準払い(月払い・年払い)のものは今後保険料が引き上げられる可能性が出てきます。
いつまで続くことになるか定かではありませんが、私達個人の生活にまでマイナスの影響が及ぶことだけは極力避けて欲しいものですね。