昨年末から相続に関連する最高裁判決が立て続けに二つ決定・公表され、新聞等を賑わせています。
以前であればこれほどマスコミに大きく取り上げられることもなかったかと思いますが、平成27年からの相続税法改正の影響で、相続に対する社会全般の関心が以前に比べてそれだけ高まっているということなんでしょうね。
ただそのうちの一つは、よく説明を聞かないと勘違いされ易く、以前お客様からもお問い合わせをいただいたことがありますので、改めて私なりの解釈・見解をお示ししておこうと思います。
それは、昨年12月19日に最高裁・大法廷でなされた
「遺産相続の際に、被相続人名義の預貯金を遺産分割の対象にする」
という決定・判示です。この文言だけ見ると「そんなの当たり前のことじゃないの?」と思われるかもしれませんが、必ずしもそうではない場面が今までの実務ではあったということです。
そもそも相続は被相続人の死亡によって開始しますが、相続人は相続開始の時から被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継し(民法896条)、相続人が数人あるときは相続財産はその共有に属する(民法898条)こととされています。
つまり、被相続人の財産は相続開始時において一旦すべての相続人が共同で承継(相続)することになります。
次にその財産を相続人間でどのように分けるか(分割方法)は、”遺言”によって指定するか(民法902条)、遺言がない場合には相続人全員による”遺産分割協議”で決定することになります(民法907条1項)。
ここでいう財産には、被相続人名義の預貯金も当然含まれますから、”遺言”あるいは”遺産分割協議”で財産の分割方法を指定・決定する際には被相続人名義の預貯金を対象に含めて行います。
しかし、被相続人に遺言がなく、遺産分割協議によっても相続人間で分割が調わなかった場合は、家庭裁判所に調停・審判を申し立てて決定してもらう他ありません(民法907条2項)。
家庭裁判所では、相続財産の種類・性質や各相続人の年齢や職業、心身・生活状況等を考慮して分割方法の決定がなされますが、概ね現存する相続財産を法定相続分に応じて分割することが多かったようです。
今回の最高裁判決は、このような場合における預貯金の取扱いについて、従前とは異なる決定がなされたものと私は解釈しています。
これまでは、『過去の最高裁判決(昭和29年4月8日・第一小法廷)で「相続人が数人ある場合において、相続財産中に金銭その他の可分債権があるときは、その債権は法律上当然分割され各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継するものと解するのを相当とする」との判示がなされたことに照らして、可分債権に該当する預貯金は相続によって各相続人に当然に(自動的に)法定相続分で分割承継されるべきものであって、遺産分割の対象とはしない』というのが実務上の取扱いでした。
しかしながら、今回の事案のように相続人の中で生前に多額の贈与等(特別受益)を受けていた者がおり、かつ相続財産の殆どが預貯金である場合にまでその預貯金を遺産分割の対象外として法定相続分で分割してしまうと、相続人間で著しく不公平が生じる恐れがあることから、実質的な公平性を重視して可分債権である預貯金も遺産分割の対象にする旨の判示が改めてなされたものと考えます。
よって、今回の決定は実情に適う極めて合理的で、かつ誰しもが納得し得るものではないかと私は思います。
この判決が今後実務に与える影響として、金融機関における相続開始直後の相続人等による預貯金の引き出しへの対応等がマスコミでは取り上げられていますが、既に遺言あるいは遺産分割協議書(相続人全員の合意)がなければ引き出しには応じない金融機関が殆どですので、その点ではあまり大きな変化はないものと思われます。
それよりむしろ、遺産分割が調停・審判にまで及ぶことなく円満に解決できるよう、過去の生前贈与等(特別受益)があればそれらも十分考慮した上で相続人間で極力不公平が生じない財産の分割方法を遺言として遺される、あるいは相続人になるであろう方々と生前から分割方法について理由を含めてよくお話をされた上で概ね納得しておいていただくことが何より大切なのではないでしょうか。