久し振りに入場制限なく本来の形に戻った夏の高校野球も盛況のうちに終わり、まだ暑い日はあるものの少しづつ秋の気配が近づいてきましたね。
そんな中、最近弊所で受けるご相談として「親御さんや配偶者の方が認知症で意思能力がなく今後の事が心配」というものが以前に増して多くなったように感じます。
認知症にも色々種類や程度の違いはありますが、最近の厚生労働省の統計によると有病者は2025年に高齢者(65歳以上)の約20%にあたる約700万人になるとされています。
つまり、65歳以上の5人に1人は認知症を発症しているということですからその様な相談が増えるのも当たり前なのかもしれません。
最近は相続も高齢化が進んでいますので、被相続人(親御世代)のみならず相続人(子世代)の方が認知症というケースも十分あり得ます。
認知症が進行して日常生活に支障を来たすような症状・行動や、意思疎通が困難で常に介護を必要とする状態になるとおよそ正常な意思能力はないと判断されても致し方ありません。
そうなってしまうと法的な契約行為を自身では行えなくなりますので、保有する財産の処分(預貯金口座の解約や高額引出等)や売却(不動産・有価証券の譲渡等)は勿論ですが、生前贈与も意思能力がない以上は行えません。
そのため、認知症が重くなって介護施設に入居させたり、日々の介護・看護サービスを受けるにもある程度纏まった資金が必要になりますが、親族がその方の財産を充てようと思っていても自由に使えない事態が起こり得ます。
また、認知症の方が相続人となった場合、仮に被相続人の遺産分割協議に参加して協議書に署名・捺印があったとしても第三者に対しては無効になってしまい、遺産分割協議のやり直しが求められることになります。
こういった場合にはいずれも家庭裁判所に”成年後見人”(通常は弁護士・司法書士等の専門家)を申立てて選任してもらう必要があり、選任された後見人が被後見人(認知症の方)に代わって亡くなられるまで財産を管理、すべての法律行為を行うことになります。
以前からお知り合いの方にたまたま弁護士等の専門家がいて運よくその方を選任してもらえればまだ良いですが、全く見ず知らずの専門家と財産の使途を交渉したり遺産分割について協議するのは何かとやり難いものです。
また、成年後見人は被後見人の利益を最優先に考えて判断・行動しますから、親族の方の考えや意見が通らないことも多分にありますので、出来ることなら成年後見人を立てずに解決したいと思われるのが普通でしょう。
成年後見制度の中には意思能力がなくなってから家庭裁判所が選任する”法定後見人”ではなく、まだ意思能力がある間に親族などの信頼できる方を”任意後見人”に選んでおいて万一意思能力が無くなった際の財産管理や身上監護などを後見契約で任せる方法もありますが、認知症を発症した後は裁判所や専門家が関与するという点で両者に違いはありません。
そこで、認知症が発症した後も財産管理を身近な親族だけで行える「家族(民亊)信託」 が最近非常に注目されています。
信託できる内容は主に財産管理に限られるという制限はありますが、上述したような理由で成年後見制度の利用が今ひとつ伸び悩む中、家族信託の利用件数はここ数年毎年10%以上増加し続けているとの推計もあります。
家族信託は比較的自由度が高く、成年後見制度や遺言等の融通が利かない部分を補完しつつ相続対策としても有効な手段になり得ますので、弊所でもケースに応じて最近は積極的にお勧めするようにしています。
契約でできる事とできない事がありますので、詳しくお知りになりたい方は一度専門家に相談なさってみて下さい。