前回に続いて、今回の改正によって今まで行ってきた生前対策やこれからの対策にどのような影響があるのかを以下に整理します。
(1)いつからの贈与が対象になるのか?
今回の改正は、令和6年1月1日以後に贈与によって取得する財産に係る相続税又は贈与税に適用されます。
従って、今まで過去に行った贈与はもちろん、今年内(令和5年12月31日迄)に行う贈与については現行制度のままで何ら影響はありません。
(2)どんな人・どんな財産に影響があるのか?
前述した通り『相続時精算課税制度』にはデメリットがあり、確かに贈与時は2,500万円まで贈与税がかかりませんが、相続時には贈与時の時価で相続財産に足し戻して相続税を計算しなければならないため課税を繰り延べているに過ぎず、将来価値が下がる可能性のある不動産や上場株式等の財産を贈与することには適していません。
また、贈与財産が被相続人の居住用(又は事業用)宅地であった場合、足し戻して相続税を計算する際その宅地には評価額を80%減額できる「小規模宅地等の特例」を適用することができません。
従って、『相続時精算課税制度』を利用して贈与する財産は、将来価値の上昇が見込まれる未公開株式や価値が変わらない現金・預貯金に自ずと限られるわけですが、前者はともかく現金や預貯金で纏まった資金を贈与する目的が直系卑属(子や孫)の住宅取得や教育資金であれば所定の非課税措置を利用すれば通常は事足ります。
そのため、今まで『相続時精算課税制度』を選択・利用するのは特殊な事情を持つごく一部の限られた方でした。
しかし、今回将来相続財産に足し戻さずに済む非課税枠ができたことにより、生前に少しずつでも相続人に預貯金等を贈与しておいた方が将来の相続税負担を軽減できると考えられるケースでも受贈者(相続人)に『相続時精算課税制度』を選択させる方がかなり増えるでしょう。
(3)誰に対する贈与でも同じなのか?
一方、相続税の生前贈与加算の対象者、すなわち被相続人から生前に受けた贈与財産を相続財産に加算するのは”相続又は遺贈により財産を取得した者”です。
つまり、相続等によって財産を取得していない者(例えば、相続人ではない孫や子の配偶者等)は、被相続人から生前いつ・いくら贈与を受けていたとしても相続財産にその財産を足し戻す必要はありません。
従って、今回の改正後であっても相続等で財産を取得する予定がない者に対しては、従来通り『暦年課税制度』の非課税枠(年110万円)を使って贈与していれば贈与税や相続税が課税されることはありません。
(4)結局、どうするのがいいのか?
以上のことをすべて勘案すると、まず大前提として
☑ 今までに行われた生前贈与に今回の改正は全く影響がありません。
そして、将来相続が生じた際に相続税が発生する見込みで、自身の残りの生活費や療養費等の支出を考慮しても相続人等への生前贈与などによって預貯金等を減らす必要がある方は、
☑ 子や孫の住宅取得や教育資金を一括贈与して非課税措置が活用できないかを最初に考えましょう。
それらを活用する余地がない、あるいは活用してもまだ一定の財産が残るため更に対策が必要となれば、
☑ 相続までまだ時間的に猶予がある(例えば10年以上)方には、『暦年課税制度』の非課税枠を活用した相続人(主にお子様)への生前贈与に出来る限り早めに着手されることをお勧めします。
☑ 高齢で相続まであまり時間がないと思われる方には、『相続時精算課税制度』の非課税枠を活用した相続人(同上)への生前贈与をお勧めします。
☑ それでもなお資金的に余裕がある場合は、将来相続人とはならないお孫様やお子様の配偶者への『暦年課税制度』の非課税枠を活用した生前贈与を考えられると良いでしょう。
あくまでこれは基本的な考え方であって、生前対策としてどの制度を活用するのが最善かはご自身の年齢や家族構成、財産状況によって変わってきますので、今回の改正によって一律・安易に『相続時精算課税制度』を選択するということではなく、税理士等の専門家に一度相談された上でお決めになるのが宜しいかと思います。