前回まで3回にわたって「相続税が課税される財産」について解説しましたが、これらの財産の中でも誤って相続財産から漏れてしまい、税務署の税務調査で指摘される事が非常に多い「名義預金等」について補足的に解説しておきます。
相続における”名義預金”とは、預金口座の形式的な名義は被相続人と異なる者(親族や第三者)であるものの、その財産を形成・取得するための資金は被相続人が拠出しており、実質的には親族等の名義を借りているに過ぎない状態の預金のことを言います。
「被相続人が子供や孫の将来のために生前に子供・孫名義で口座を開設し、毎年少しずつ預金していた」、あるいは「被相続人が生前に配偶者名義で口座を開設し、預金していた」といったようなものがその典型的な例です。
当該預金は形式的には名義人の固有の財産であって、被相続人の相続財産に含めるべきものではないように思えますが、その預金の原資を被相続人が拠出していることや、口座を開設する際、あるいは預金を振込む際に必要な印鑑・通帳・カード等を被相続人が管理していたであろうことなどを斟酌すると、実質的には被相続人が保有している他の財産(例えば、被相続人名義の預金)と何ら変わりがないと考えられることから、例え名義は異なっていたとしても被相続人の相続財産に含めることとされています。
これは何も預金に限った事ではなく、株式やゴルフ会員権などの他の動産は勿論、土地や家屋などの不動産であっても考え方は同じです。
該当するか否かのポイントは、
①その財産を形成・取得するための資金を誰が拠出・負担したのか
②その財産を誰が管理(使用・収益)していたのか
の2点です。このいずれも被相続人が行っていたのであれば、その財産は被相続人の本来の相続財産に含めなければならないので注意して下さい。
では「どうすれば名義預金等とみなされないのか」ですが、上記2つがいずれも被相続人でないことを立証・説明できれば良いのです。つまり、
①その財産について生前に被相続人が受贈者に贈与した事実 と
②実際にその財産を受贈者が管理していた事実
を確証として残しておくということです。
例えば、①については贈与者・受贈者の意思を示した”贈与契約書”や”預金口座の振込記録”が、②については“受贈者が日常使用している預金口座の利用”と”印鑑・通帳等を受贈者が管理”していること等がその証跡の一つになり得ます。
税務署から贈与認定を受けるために最低限必要なこれらの要件は、きっと何処かのセミナーで聞かれたり、雑誌や書籍等でもご覧になったことがあると思いますが、それはこのような経緯・理由に拠るものです。
ただご承知の通り、財産を贈与すると暦年課税の基礎控除額(110万円)以上の金額には贈与税が課されますので、財産価額が相応の金額になる場合には、名義預金等として相続財産に含めて”相続税”を課税された方が良いのか、それとも暦年の贈与財産として”贈与税”を課税された方が良いのかを比較衡量して判断された方が良いでしょう。
また、相続開始前3年以内の贈与財産はいずれにしても相続財産に加算されてしまいますので、贈与を選択する場合には贈与する時期もよく考えて行う必要があります。