前回まで「相続税が課税される(されない)財産」、すなわちプラスの財産(積極財産)について解説してきましたが、相続人は相続によって被相続人が生前保有していた借入金や未払金等の”債務”(マイナスの財産 = 消極財産)も合わせて包括的に承継することになります。
また、被相続人の死亡に伴って葬儀を行うと、それに要する”葬式費用”は遺族(通常は相続人)が負担することになります。これは被相続人の債務ではありませんが、死亡に伴って必然的に生じる費用であることから、被相続人の債務と合わせてプラスの財産から控除することが認められています(相続税法13条)。
この”債務”や”葬式費用”をプラスの財産から控除することを”債務控除”と言い、債務控除をした後の正味の財産価額に対して相続税が課税されます。
尚、この債務控除は、以前に引用した”相続税申告書第15表(相続財産の種類別価額表)”では減算項目(㉝・㉞)として記載されています。
(1)債務
控除の対象となる債務は、被相続人の債務で相続開始の際に現に存するもの、かつ確実と認められるものに限られます(相続税法13条1項、14条1項)。
具体的には、次のようなものが該当します。
①被相続人自身が債務者となっていた借入金等の未返済分
②被相続人の死亡前の入院治療費費や家賃・地代・光熱費等の未払分
③被相続人の保有していた土地・家屋に係る固定資産税の未納分
※毎年1月1日現在で納税義務が確定しますので、亡くなった年分の未納分が全額控除対象になります。
④被相続人の亡くなった年分の所得税・住民税の未納分
※準確定申告の結果、納付税額があれば控除対象になりますが、還付税額があれば相続財産になります。
⑤被相続人が保有していた貸家等の預り保証金・敷金(返還義務があるもの) 等
一方、被相続人が生前購入した墓地・墓碑など非課税財産の取得・維持・管理に係る費用の未払金は、当該財産自体が課税されないために控除対象にはなりません(相続税法13条3項、相続税法基本通達13-6)。
また、保証債務・連帯債務は確実な債務ではありませんから、原則、控除対象にはなりません。主たる債務者や他の債務者が弁済不能なために相続人等が代わりに返済し、かつ当該債務者に求償しても返還を受ける見込みがない場合はその弁済不能な部分についてのみ控除することができます(相続税法基本通達14-3)。
ちなみに、被相続人に住宅を購入した際の銀行等からの借入金(住宅ローン)が残っている場合がありますが、通常、住宅ローン借入時に団体信用保険等の生命保険に加入し、債務者がローン返済中に死亡した際には未返済額を保険金で補填する契約になっているケースが殆どです。その場合、相続時において被相続人の当該債務は保険金によって完済・消滅しています。従って、住宅ローンの残額は控除対象となる債務には該たりません。
(2)葬式費用
控除の対象となる葬式費用は、相続税法基本通達13-4に以下のものが示されています。
①葬式若しくは葬送に際し、埋葬、火葬、納骨又は遺がい若しくは遺骨の回送その他に要した費用
(仮葬式と本葬式とを行うものにあっては、その両者の費用)
② 葬式に際し、施与した金品で、被相続人の職業、財産その他の事情に照らして相当程度と認められるものに
要した費用
③葬式の前後に生じた出費で通常葬式に伴うものと認められるもの
④死体の捜索又は死体若しくは遺骨の運搬に要した費用
一方、葬式費用でないものについても相続税法基本通達13-5に以下のものが示されています。
①香典返戻費用
②墓碑及び墓地の買入費並びに墓地の借入料
③法会に要する費用
④医学上又は裁判上の特別の処置に要した費用
平たく言うと、被相続人が亡くなられてから本葬までの間に通常要すると認められる程度の費用であれば葬式費用に含めることが出来ます。注意していただきたいのは、通夜・本葬であっても過度に豪勢なもの、あるいは香典返戻費用や初七日・四十九日法要に要する費用等は葬式費用に含めることが出来ないという点です。
実際に被相続人が亡くなられた直後、遺族の方々は色んな手続に追われてあまり物事を考える余裕はないかもしれませんが、このように葬式費用には債務控除に含められるか否かの判断が必要になりますので、お葬式に係る費用については可能な限り領収書等を保管し、領収書が発行されないものについてはメモ書きするなど何かしら記録を残しておかれた方が良いでしょう。