土地(宅地)の評価方法に関して3回にわたって解説してきましたが、最後に相続財産の課税価格合計額や相続税額に対する影響が非常に大きい”小規模宅地等の特例”について説明しておきます。
相続又は遺贈(若しくは贈与)によって取得した宅地の評価は、原則、前回までに解説したような方法で評価を行います。
しかし、被相続人の居住用の宅地等まで原則通り評価し、そのまま課税価格に算入してしまうと、相続税額が多額になって居住用宅地を手放さなければならなくなるなど、相続人等の生活基盤を脅かす恐れがあるため、一定の要件を満たす宅地を一定の要件を満たす者が取得した場合には、所定の書類を添付して申告することを要件として、課税価格に算入する宅地の価額を一定割合減額することが認められています(租税特別措置法69条の4)。
これを”小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例(小規模宅地等の特例)”と言います。
(1)特例対象宅地等
まず、本特例が適用できる宅地等(土地又は土地の上に存する権利)は、次のいずれかに限られます(1項)。
①相続開始の直前において、被相続人又は被相続人と生計を一にしていた親族の事業の用に供されていた
宅地等で、建物又は構築物の敷地の用に供されているもの
②相続開始の直前において、被相続人又は被相続人と生計を一にしていた親族の居住の用に供されていた
宅地等で、建物又は構築物の敷地の用に供されているもの
平たく言うと、被相続人等(被相続人又は被相続人と生計を一にしていた親族)が生前に事業又は居住の用に供していた宅地等が対象になるわけですが、アンダーライン部分に注意が必要です。
例えば、被相続人が生前に駐車場の貸付事業を行っていたとして、その駐車場が囲い塀やアスファルト舗装等がなされていない”更地の駐車場”であった場合、その敷地である宅地は事業の用に供されていた宅地等には該当しますが、建物又は構築物の敷地の用に供されていないために本特例の適用対象にはなりません。
また、例え被相続人の居住の用に供されていた宅地等であっても、主たる居宅ではない”別荘”等の敷地の用に供されている宅地等は本特例の適用対象にはなりません。
その上で、特例対象宅地等は更に次の4つに区分され、各区分によって適用要件や限度面積、減額割合が異なります(1項・2項)。
【限度面積】 【減額割合】
①-1-1 特定事業用宅地等 400㎡ 80%
①-1-2 特定同族会社事業用宅地等 (①-1-1・①-1-2を合わせて)
①-2 貸付事業用宅地等 200㎡ 50%
② 特定居住用宅地等 330㎡ 80%
この中でも、一般に最も適用することが多い”特定居住用宅地等”について適用要件を細かく見ていきます。
(2)特定居住用宅地等
被相続人又は被相続人と生計を一にしていた親族の居住の用に供されていた宅地等の場合、その宅地等の取得者が配偶者の場合は無条件で本特例が適用できます。
しかし、取得者が親族の場合は、以下のいずれかに当てはまる場合に限って適用することができます(3項2号)。
①同居親族
・相続開始の直前において、その宅地等の上の被相続人が居住の用に供していた1棟の建物に居住していた
者であり、
・相続開始時から申告期限まで引き続き当該宅地等を所有していること、かつ
・相続開始時から申告期限まで当該建物に居住していること
②別居親族
・被相続人の配偶者又は相続開始直前に被相続人と同居していた法定相続人がいない場合で、
・その者が居住制限納税義務者又は非居住制限納税義務者のうち日本国籍を有しない者ではなく、
・相続開始前3年以内に日本国内にあるその者、その者の配偶者、その者の3親等内の親族又は
その者と特別の関係がある一定の法人が所有する家屋に居住したことがない者であり、
・相続開始時にその者が居住している家屋を相続開始前のいずれの時においても所有していたことがなく、
・相続開始時から申告期限まで引き続き当該宅地等を所有していること
③生計一親族
・被相続人と生計を一にしていた者であり、
・相続開始時から申告期限まで引き続き当該宅地等を所有していること、かつ
・相続開始前から申告期限まで引き続き当該宅地等を自己の居住の用に供していること
取得者が配偶者又は上記いずれかの親族に該当する場合には、その取得した宅地等のうち330㎡に達するまでの部分については相続税の課税価格に算入する価額を80%減額することができます。
例えば、自用地の評価額が1億円の宅地の場合、本特例を適用できれば課税価格は1億円ではなく2,000万円で良いということですから、適用できるのであれば是非活用したい特例です。
ちなみにこの限度面積、330㎡以内の宅地等でないと適用できないという意味ではありません。330㎡を超える部分には適用されないだけであって、330㎡に相当する部分は80%減額が適用できますのでご安心下さい。
但し、申告期限までに遺産分割されていない宅地等については、原則、本特例の適用を受けることはできません(4項)。
また、相続開始前3年以内に贈与を受けた宅地等、あるいは相続時精算課税の適用を受けた宅地等については本特例の適用がありませんのでこれらの点には注意して下さい(租税特別措置法関係通達69の4-1)。
いずれにしても、本特例は平成25年度税制改正によって上記限度面積や異なる区分の併用方法等が緩和されたことはもとより、「二世帯住宅の取扱い」や「被相続人が老人ホーム等に入居又は入所していた場合の取扱い」も見直しがなされていますので、適用を受けられる(又は将来適用を受けることを考えられている)方は適用要件を満たしているのか事前に税理士に相談・確認されることをお勧めします。