今回は”現金・預貯金”の評価方法についてお話しします。
前回までの土地や家屋と異なり、これらの財産は金銭ないし金銭債権ですから、基本的に相続開始時における”手許残高”あるいは”預入高”がそのまま評価額になります。
ただ預貯金で一点注意をしなければならないのは、普通預金等の利息が少額なものを除き、定期預金等は相続開始時点で解約するとした場合に受取ることができる”既経過利子の額(源泉徴収税額控除後)”も預入高に加算しなければならないということです(財産評価基本通達203)。
もっとも、実務的には被相続人が生前取引をされていた金融機関に相続開始時点における取引口座の”残高証明書”を発行してもらいますので、その証明書に既経過利子も記載してもらうよう依頼すれば事足りてしまいます。
皆さんも金融機関に預貯金の残高証明書を発行してもらう際には、必ずこの既経過利子の記載を依頼することを忘れないようにして下さい。
むしろ”現金・預貯金”で重要なのは、評価方法よりも全ての財産を漏れなく計上することでしょう。
その意味では、本コラムの第7回(相続税が課税される財産④)でも解説した”名義預金”に加えて、
・ご自宅に保管されている通帳(繰越済の過去分も含む)
・金融機関から送られてくる郵送物
・金融機関名が入ったカレンダーの有無
・遺品の中にある名刺やアドレス帳(携帯・PC含む)
など、生前被相続人が金融機関と取引されていたと推測されるものから口座及び残高の有無を各支店・担当者に問い合わせ・確認されることが大切です。
ゆうちょ銀行など、金融機関によってはセンターで全支店の口座残高を纏めて確認してくれるところもありますので、是非活用されると良いと思います。
また、被相続人が亡くなられる前に長らく入院生活をされていて、その入院費等を支払うために相続開始前に何回かに分けて多額の現金が預貯金から引き出されていたり、あるいは葬式費用等の資金を準備するために相続開始直前に預貯金からまとまった現金が引き出されているケースがよくありますが、これらの現金は相続開始時までに費消されていなければ、相続開始時点においては現金として手許に残っているはずです。
その場合は、やはり現金として相続財産に計上しなければなりません。
先の金融機関が発行する相続開始時点における残高証明書には、当然引き出された後の残高が記載されてきますので、「手許に幾ら現金が残っているかなんて誰にも分からないだろう」と思われるかもしれませんが、税務署は、被相続人の過去の申告書や金融機関から都度提出される支払調書などを通じて、被相続人はもとよりその家族(相続人)の預貯金の異動状況を過去数年間にわたって大よそ把握しています。
そのような認識の下、全て漏れなく計上・申告されることが無用な税務調査を避ける意味でも賢明かと思います。