前回ご説明した計算方法により各相続人の相続税額が算出されますが、その金額が最終的に税務署に支払う税額(納付税額)ではありません。
そこから種々の政策上の理由・配慮によって、一定項目が加算・減算されて最終的な各相続人毎の納付税額が決まります。
加算項目には”相続税額の2割加算”があり、減算項目には各種”税額控除”があります。
(1)相続税額の2割加算
相続は、被相続人の財産形成に一定の貢献をしたと考えられる配偶者や、被相続人に最も血縁関係が近い子(又は親)世代に財産を引き継ぐのが極めて自然であり一般的です。
そのようなことを制度上も考慮して、被相続人の配偶者及び1親等の血族(第1順位の代襲相続人を含む)以外の者には、算出した相続税額を2割加算することになっています(相続税法18条1項)。
また、被相続人の直系卑属で被相続人の養子となった者、いわゆる孫養子も法律上は1親等の血族ですが、例外的に2割加算の対象になります(相続税法18条2項)。
平たく言えば、被相続人の配偶者、子供あるいは父母以外の者が財産を取得した場合は、その者の相続税額が2割加算されるということです。
(2)税額控除
反対に、各相続人の個別の事情等を考慮して、該当する場合には算出した相続税額から控除できるものが以下の通り7つあります。
①贈与税額控除(相続税法19条) ・・・ 生前贈与財産で過去に贈与税を支払っている場合
②配偶者の税額軽減(相続税法19条の2) ・・・ 財産取得者が配偶者の場合
③未成年者控除(相続税法19条の3) ・・・ 財産取得者が法定相続人、かつ20歳未満の場合
④障害者控除(相続税法19条の4) ・・・ 財産取得者が法定相続人、かつ障害者である場合
⑤相似相続控除(相続税法20条) ・・・ 10年以内に2回以上相続が生じた場合
⑥外国税額控除(相続税法20条の2) ・・・ 国外財産で外国で課税された税額がある場合
⑦相続時精算課税分の贈与税額控除(相続税法21条の15・16)
・・・ 相続時精算課税適用財産で過去に贈与税を支払っている場合
尚、このうち2つ以上の税額控除を適用する場合は、①~⑥の順に適用していき、控除しきれない金額がある場合は納付税額がゼロとなった時点で終了です(残額が還付されることはありません)。
但し、⑦についてのみ、相続税額から控除しきれない金額がある場合はその金額の還付を受けることができます(相続税法33条の2)。
この中で、一般的に最も多く適用されるのは、やはり②配偶者の税額軽減でしょう。
”配偶者の税額軽減”は、被相続人の死亡後の配偶者の生活保障を図ることを主な目的として、課税価格の合計額のうち配偶者の”法定相続分”か”1億6,000万円”のいずれか少ない方に相当する相続税額までは課税しないという特例です。
配偶者の事情を特別に考慮した特例ですから、仮に適用すると納付税額がゼロになるとしても申告することが必要にはなりますが、相続人に配偶者がいる場合は適用した方が納付税額は少なくなりますので、利用した方が得策でしょう。但し、この特例を適用する際は一点注意が必要です。
それは、”配偶者の財産の取得割合をどうするのか”ということです。
今回の相続(一次相続)での税負担が少なくなることを優先して、むやみに配偶者の財産取得割合を多くすると、次に配偶者が亡くなられた際の相続(二次相続)で、お子様に思わぬ税負担が生じる恐れがあります。
二次相続では”配偶者の税額軽減”が使えませんからね。
ですので、この特例を適用する場合は、必ず二次相続まで踏まえて配偶者の方の財産取得割合をお考えになることが肝要です。