【相続のイロハ(第28回)】 生前対策について② ~具体的方策(その1)~

 今回は生前対策の具体的手段の一つである「各相続財産の課税価格の圧縮」についてお話しします。

 

 以前の投稿でもご説明した通り、相続財産は、原則、相続開始時の時価で評価することになっていますから、ご自身で費消されてしまう以外に相続財産の課税価格を圧縮する方法としては、

 

 ①相続財産を非課税(もしくは相続税より低い税負担)で次世代(相続人等)に移転させるか ~減らす~

 ②相続財産を時価評価のより低い財産に組み替えるか ~低く抑える~

 

のいずれかということになります。

 ①の典型的な例としては”みなし相続財産(生命保険金等)の非課税限度額の活用””生前贈与の各種非課税制度の活用”、②の例としては”金融資産(現預金・有価証券)の固定資産(不動産)への組替え”があります。

 

(1)生命保険金の非課税限度額の活用

 第5回(相続税が課税される財産②~みなし相続財産~)第8回(相続税が課税されない財産~非課税財産~)でご説明した様に、相続人が受け取った生命保険金はみなし相続財産として被相続人の相続財産に加算されますが、そのうち一定金額(500万円×法定相続人の数)までは相続税が課税されないことになっています。

 この非課税枠を活用して相続人に財産を移転させようというものです。

 

 生命保険を活用するということは、ご自身は生前に保険金相当の保険料を支払う必要ありますので一定の課税価格の圧縮になりますし、何より相続人の方にとって保険金は相続開始直後の生活・納税資金として極めて有用ですから、生前対策としては真っ先に考えられる方策です。

 しかし、私の事務所に相談に来られる方にお話を伺うと、この限度額をフルに活用されている方は意外に少ないですね。現役当時、それ程生命保険の種類が多くなかったということもあると思いますが、最近は70歳以上の方でも簡単に加入できる一時払い終身保険や生前贈与と組み合わさった商品等もありますので、そういった方にはこの方策を最初にお勧めしています。

 

(2)金融資産(現預金・有価証券)の固定資産(不動産)への組替え

 相続財産は、原則、相続開始時の時価で評価すると言っても、財産評価基本通達における時価は財産の種類によって拠るべきところが異なります。

 つまり、現預金や有価証券など市場価格があるものは、相続開始時のその価格を時価としてそのまま(100%)評価しますが、流動性の低い土地や家屋は路線価又は固定資産税評価額(公示価格の70~80%) を時価として評価します。

 このため、相続財産を現預金や有価証券などの金融資産として保有しているよりも、土地や家屋などの不動産として保有した方がその分(20~30%)課税価格の圧縮が図れるというわけです。

 

 加えて、その不動産を第三者に賃貸すれば、第14回(相続財産(土地)の評価方法③~貸宅地・貸家建付地~)でご説明した様にそこから更に相応の評価減ができ、仮にその土地に「小規模宅地等(貸付事業用宅地等)の特例」が適用出来ればその上更に50%の評価減も可能になります。

 その結果、この方策によって課税価格を元の20~30%程度にまで圧縮することも不可能ではありません。

 

 但し、この方策には良い面ばかりではなく、第三者に賃貸することによるリスク(貸主の自由な使用・処分が困難になる、あるいは賃料収入が将来に亘って見込めない等)や不動産の購入・所有・売却に係る各種費用(税金・仲介手数料・維持費等)が継続的に発生するといった悪い面もありますので、一時的な相続対策としてだけで考えるのではなく、長期スパンでプラス・マイナスを考える必要があることだけは十分ご留意下さい。

 

 次回は”生前贈与の各種非課税制度”について解説します。