前回、相続税が課税される財産の概要について解説し、”相続税申告書第15表(相続財産の種類別価額表)”を引用して課税対象財産を幾つか例示しました。
実はその中には、厳密に言えば被相続人からの相続・遺贈により取得したものではない財産も含まれています。
具体的には”生命保険金等”と”退職手当金等”です。
これらは、いずれも被相続人の死亡を原因事由として契約によって保険会社(又は被相続人の勤務先)から受取人に対して直接支払われる保険金(又は退職金)ですから、本来は受取人固有の財産になります。
しかし、これらの金銭は、被相続人が生前に保険契約(又は雇用契約)に従って保険料を支払ってきた(又は労働を提供してきた)対価を保険会社(又は被相続人の勤務先)が受取人に支払っているに過ぎませんから、実質的には被相続人から相続・遺贈によって取得する他の財産と何ら変わりはないと考えられます。
そこで、相続税法ではこれらの財産を”みなし相続財産”として相続税の課税対象にしています。
受取人が相続人の場合は”相続”により取得したものとみなされ、受取人が相続人以外の場合は”遺贈”により取得したものとみなされます(相続税法3条1項)。
尚、”みなし相続財産”となる生命保険金等は、被相続人が被保険者である保険契約で、かつ被相続人が負担した保険料に対応する部分に限られます(相続税法3条1項1号)。また退職手当金等は、被相続人に支給されるべきであった退職手当金・功労金その他これらに準ずる給与で、被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したものに限られます(相続税法3条1項2号)。
余談ですが、よく勘違いされて相続財産から漏れるケースの一つに”受取人が相続人以外の方(例えば、長男の配偶者や内縁関係者等)の場合の受け取った生命保険金”があります。
「受取人が相続人ではないのだから相続財産に含めなくても良いだろう」と思われがちですが、それも”みなし相続財産”として相続財産に含めなければなりません。しかも、相続人以外の方の場合は”生命保険金等の非課税限度額”〔参照:第3回・法定相続人③〕の適用がありませんから、受け取った保険金の全額が相続税の課税対象になります。
この他にも相続税法には”みなし相続財産”として次のものが列挙されていますが、上記の2つに比べてケースとしてはあまり多くないため詳細は割愛します。
・生命保険契約に関する権利(相続税法3条1項3号)
・定期金に関する権利(相続税法3条1項4号)
・保証期間付定期金に関する権利(相続税法3条1項5号)
・契約に基づかない定期金に関する権利(相続税法3条1項6号)
・特別縁故者に対する財産分与(相続税法4条)
・低額譲受や債務免除、その他の事由による経済的利益(相続税法7条~9条)
・一定の信託財産(相続税法9条の2、9条の4)
相続税が課税される財産には、被相続人が生前保有していた本来の財産だけでなく、上述したような”みなし相続財産”が含まれる(加算される)ということを覚えておいて下さい。