【相続のイロハ(第6回)】 相続税が課税される財産③ ~生前贈与財産等~

 被相続人が生前保有していた本来の財産以外で相続税の課税対象として加算されるものに”みなし相続財産”があることを前回解説しましたが、その他にも”生前贈与財産””相続時精算課税適用財産”があります。

 

 ”生前贈与財産”とは、相続又は遺贈により財産を取得した者が被相続人から生前に贈与を受けた財産を言いますが、そのうち相続税の課税対象とされるのは”相続開始前3年以内”のものに限られます(相続税法19条1項)。

 

 「既に贈与税の課税対象になったものがどうして相続税の課税対象にもなるのか」と思われるかもしれませんが、本ブログのスタート当初の投稿にも記載した通り、そもそも贈与税は相続税の租税回避を抑制・防止するために設けられた補完的な税金としての性格を有しています。

 その考え方に拠れば、生前に被相続人から贈与された財産は被相続人から相続・遺贈によって取得したものではありませんが、できるだけ相続税として課税した方が立法趣旨にも合致するため、一定の期間内(相続開始前3年以内)のものに限って相続税の課税対象として加算することとされたのです。

 その代り、該当期間中の生前贈与財産について過年度に贈与税を申告・納付している場合は、二重課税とならないよう相続税額から支払った税額(相続税の課税対象に含めた財産に対応する部分のみ)を控除する仕組みになっています。

 

 ちなみに、この”相続開始前3年以内”とは相続開始日から遡って3年前の応当日以降を言いますので、例えば、相続開始日が平成27年1月1日の場合は平成24年1月1日以降の贈与が対象になります。

 尚、令和5年度の税制改正により、令和6年1月1日以後の相続又は遺贈により財産を取得した場合については、原則、生前贈与加算の対象期間が”相続開始前7年以内”に延長されています。

 また、生前贈与財産が加算されるのは”被相続人から相続・遺贈により財産を取得した者”ですから、仮に生前に被相続人が孫にいくら多額の贈与をしていたとしても、その孫が相続人(又は受遺者)にならない限りは生前贈与財産として加算する(相続財産に含める)必要はありません。

 

 一方、”相続時精算課税適用財産”とは、60歳以上の直系尊属(特定贈与者)から財産の贈与を受け、相続時精算課税を選択した者(相続時精算課税適用者)が、その後特定贈与者が死亡した場合の相続時精算課税を選択した年分から死亡までの間に特定贈与者から受けた全ての贈与財産を言います。

 

 ここでは詳細の説明は割愛しますが、贈与税の課税方式には、①1月1日から12月31日までを一つの計算期間として課税する”暦年課税”と、②贈与を受けた時点では課税を行わず(25百万円迄)、贈与者が亡くなった相続時にまとめて課税する”相続時精算課税”があります。

 ①の方式が通常ですが、②の方式を選択されていた方が相続人(又は受遺者)となった場合は、選択した後に被相続人(特定贈与者)から贈与を受けた全ての財産を贈与時の価額(時価)で相続税の課税価格に加算することになっています(相続税法21条の15、21条の16)。

 尚、”相続時精算課税”が選択できる対象者要件が、平成26年12月31日以前は”贈与者は65歳以上の直系尊属、受贈者は20歳以上の直系卑属で推定相続人”でしたが、平成27年1月1日以後は”贈与者は60歳以上の直系尊属、受贈者は20歳以上の直系卑属で推定相続人及び孫”に平成25年度税制改正によって緩和されています。

 また、成人年齢の引き下げに伴って、令和4年4月1日以後は受贈者の年齢も18歳以上に引き下げられています。

 

 実はこれら2つの財産も、前々回に引用した”相続税申告書第15表(相続財産の種類別価額表)”の中に加算項目(㉛・㊲)としてチャンと記載されていますので、ご興味のある方は一度ご確認下さい。

 

 

 ここまで3回にわたって「相続税が課税される財産」について解説してきましたが、対象となる財産はこれらで全てです。次回は「相続税が課税されない財産(非課税財産)」についても見ておきたいと思います。